01研究のねらい:なぜ『軸』を測るのか

「おすすめのSaaSは?」「東京でおすすめの葬儀社は?」「初心者向けの化粧水は?」——AI検索エンジンに毎日数百万回投げられているこの種のクエリに対し、AIは何を根拠に答えを組み立てているのか。これはLLMO(Large Language Model Optimization)、すなわち「AIに自社を推薦させるための最適化」を考える上での出発点となる問いである。

AIが引用するドメインの分析は、これまで弊社を含む複数の研究機関が行ってきた。4大エンジン共通の引用ドメインTOP10もその一例だ。一方で「AIがどんな理由・どんな観点でブランドを推しているか」——つまり推奨文脈そのものを体系的に測った研究は、少なくとも日本においてはほとんど見当たらない。

本研究では、4エンジン(ChatGPT・Gemini・Perplexity・Google AI Overview)に対して51種類の「おすすめ◯◯」クエリを5週間にわたって投げ続け、回答テキストから推奨理由(=軸)を自由記述で抽出した。エンジンごとの推し方のクセと、その安定性を定量化している。

本研究の主要発見

① エンジンごとに『おすすめのクセ』が体系的に違う。Perplexityは口コミ評判を軸にし、AIOはスペック比較で語り、ChatGPTは役割ラベル付き5商品リスト(コスパ最強・本格派向け…)で見せ、Geminiは料金の透明性と担当者の安心感で語る。

Perplexityだけ推奨理由が不安定。同じ質問でも観測日が違うと、別の観点で答えてくる(他3エンジンは比較的安定)。

ChatGPTは「無料・初回」をほぼ語らない(3%)。AIO(12%)・Gemini(11%)の1/4以下で、ChatGPTには有料前提で推す癖がある。

④ 業界ごとに「語り口」が固定化している。電気自動車では『航続距離・充電環境・補助金』、化粧水では『成分・保湿力・敏感肌対応』など、業界特化の表現が2,300以上抽出された。

024エンジンの『おすすめのクセ』を分解する

4エンジンへの観測回答から推奨理由を抽出し、頻度の高い軸(同義語をグループ化したもの)でエンジン別の登場率を比較した。最も特徴が出た4軸を以下に示す。

Figure 1 ── 4エンジンの『おすすめのクセ』を分ける4軸
Engine Recommendation Axes Profile
同じ質問でも、AIごとに『推す理由』はここまで違う
Perplexity
31%
ChatGPT
19%
AIO
14%
Gemini
12%
AIO
28%
Gemini
17%
Perplexity
13%
ChatGPT
11%
AIO
12%
Gemini
11%
Perplexity
6%
ChatGPT
3%
ChatGPT
6%
Gemini
0%
Perplexity
0%
AIO
0%
© LIFE, Ltd. — エンジン別の推奨理由(軸)登場率。観測回答テキストから自由記述で軸を抽出、同義表現をグループ化して集計。

Perplexity ── 「口コミ・評判」軸に振り切る

Perplexityは観測の31%で「口コミ・評判・ランキング」を軸として持ち出す。他エンジン(12〜19%)の倍に近い。「Google評価点数◯◯」「食べログレビュー数◯件」「マイベスト1位」のような第三者媒体の集合知をそのまま回答軸にする癖がある。これは弊社の以前の研究「Perplexityはマイベストを5業界で上位引用」とも整合する。Perplexityはリアルタイム検索+出典バッジ提示の構造ゆえ、参照ソースの編集評価をそのまま軸として再生産する。

AIO ── 「スペック・性能」比較が異常に厚い

Google AI Overview(AIO)は観測の28%で「スペック・性能」軸を持ち出す。他エンジンの2倍以上。EV車では「航続距離」「充電環境」、化粧品では「成分」、SaaSでは「機能」「導入企業数」のような性能スペック比較で語る癖が顕著だ。これはGoogle検索本体の比較ロジック(製品レビュー・スペック比較ページ優遇)が、AIOの推奨文脈生成にも残っていることを示唆する。同時に「無料・初回」軸も12%と全エンジン中最高で、「無料試用→スペック比較」という従来Google検索ユーザーの導線をAIOがそのまま継承している可能性がある。

ChatGPT ── 役割ラベルを貼った5商品リスト

ChatGPTは独特の回答フォーマットを持つ。「Best overall(バランス最強)」「コスパ最強」「本格派向け」「初心者向け」のような役割ラベルを5つの商品それぞれに貼り、ユーザーが自分の状況に合う1つを選べる形式で見せてくる。末尾には「選び方解説」と「もっと絞り込みますか?」という追加質問を置く定型がある。「上級者・本格派」というラベルが付く軸はChatGPTにしか出ない(他3エンジンで0%)。「比較・選び方」軸も12%で他エンジン(2-8%)の2倍以上現れ、ChatGPTは「教えてくれる先生」のような立ち位置で答える。

ChatGPT ── 「無料・初回」をほぼ語らない(有料前提で推す)

もう一つChatGPTで興味深いのが、「無料・初回」軸の極端な少なさだ。AIOは12%・Geminiは11%で「無料体験」「初回特典」を持ち出すのに対し、ChatGPTは3%しかない。1/4以下である。これは「無料かどうか」を推奨基準にせず、有料前提で「これがおすすめです」と推してくる癖を意味する。BtoB SaaSや教育サービスのようにAIを通じて選定が行われる領域では、「ChatGPT経由のユーザーには無料訴求が刺さりにくい」ことを示唆する。

Gemini ── 「料金の明朗さ」と「担当者ガチャがないこと」を見る

Geminiは「料金透明性」11%、「担当者・人間性」21%と、いわゆる「ハズレを引かないこと」を軸にする癖が強い。たとえば結婚相談所のおすすめでは「追加費用がかからず明朗会計」「担当カウンセラーの質が均質で、合わない人に当たるリスクが少ない」のような安心感ベースの軸が頻出する(営業マンの人柄が良い、という話ではない)。商品系では「アミノ酸系洗浄成分」「JIS規格」「ISO認定」のような客観的に検証できる規格名・成分名で軸化する。Geminiは AIOよりも「人間が信頼するシグナル」を選別して提示する設計に寄っていると推測される。

同じ質問なのに、AIごとに見ているものが違う。
ChatGPTは「役割」を、AIOは「スペック」を、
Perplexityは「口コミ」を、Geminiは「ハズレない安心」を見ている。

03業界ごとの語り口

4エンジン横断の汎用軸(29グループ)に束ねきれなかった軸が2,337個抽出された。これらは業界特化の語彙であり、業界ごとの語り口を浮かび上がらせる。

Table 1 ── 業界別の頻出軸(観測から抽出)
業界頻出軸(観測から抽出)
電気自動車航続距離 / 充電環境(自宅充電) / 補助金活用 / 走行性能
化粧水アミノ酸系洗浄成分 / 保湿力 / 美白ケア / 敏感肌対応
転職エージェント業界特化 / 完全成功報酬 / 求人数 / 担当者の専門性
注文住宅・リフォーム高気密・高断熱 / 相見積もり / 補助金活用 / 地域工務店
プログラミングスクールマンツーマン指導 / 受講後の転職保証 / カリキュラム / 学費
結婚相談所成婚率 / 成婚料0円 / 担当者との相性 / オリコン顧客満足度
葬儀社24時間対応 / 地域密着 / バリアフリー対応 / 事前相談 / 明朗会計
老人ホーム要介護度対応 / 介護体制 / バリアフリー / 看取り対応

注目すべきは、これらの業界特化語彙は4エンジンで共通して現れる点だ。「電気自動車=航続距離・充電環境」「転職エージェント=業界特化・完全成功報酬」のような業界の共通言語は、AIエンジン横断で固定化している。これは業界内のWeb情報源(比較メディア、業界団体、口コミサイト)の語彙が、AIの学習・検索基盤の双方に強く反映されていることを示唆する。

裏返せば、自社のコンテンツが業界の共通言語でどれだけ語られているかが、AI推奨に乗るかどうかの一つの目安になりそうだ。航続距離・自宅充電・補助金——電気自動車を語る上での「定番フレーズ」を自社サイトや第三者メディアにどれだけ蓄積できているか。LLMO対策を考える上で、業界の共通言語の棚卸しは出発点になる。

04Perplexityだけ推奨理由が不安定

4エンジンの『おすすめのクセ』は、繰り返し聞いても同じ答えになるのか。20種類のクエリを5週間追跡し、同じ質問・同じエンジンで観測日が異なるペアを作って、軸セットの重なり率(Jaccard係数。1.0=完全一致 / 0=全く違う)を集計した。

結論を先に述べる。4エンジンの全体平均はほぼ同じ(0.49〜0.53)。ただしPerplexityだけ、観測日の間隔が広がるほど一致率が下がる。つまり、同じ質問でも観測日が違えば別の答えが返ってくる——Perplexityは推奨理由が不安定だ。

Figure 2 ── 観測日の間隔別の軸の重なり率(Jaccard係数)
Recommendation Axes Stability
同じ質問を間隔を置いて聞いた時、軸セットがどれくらい重なるか
(1.0=完全一致 / 0=全く違う)
0–3日
0.439
4–7日
0.525
8–14日
0.496
15–21日
0.465
22日以上
0.445
0–3日
0.633
4–7日
0.520
8–14日
0.545
15–21日
0.496
22日以上
0.520
0–3日
0.633
4–7日
0.535
8–14日
0.488
15–21日
0.485
22日以上
0.421
0–3日
0.577
4–7日
0.520
8–14日
0.475
15–21日
0.509
22日以上
0.505
© LIFE, Ltd. — 同KW × 同エンジン × 異なる観測日のペアで軸セットの重なり率を集計。

なぜPerplexityだけ不安定なのか

Perplexityはリアルタイム検索を前提とし、回答の都度「最新のソース」を参照する設計だ。情報源が更新されれば、引用元の編集評価も更新される。Perplexityが口コミ・評判を回答軸の31%で持ち出す(前章Figure 1)ことと組み合わせると、構造的に以下が起きていると推測できる:

  1. Perplexityの参照ソース(比較メディア・口コミサイト・ニュース)が日々更新される
  2. 参照する記事が変われば、ピックアップされる軸も変わる(あるタイミングは「料金重視」、別のタイミングでは「実績重視」など)
  3. 結果としてPerplexityは、同じ質問でも観測タイミングによって別の答えを返す

他3エンジン(ChatGPT・Gemini・AIO)は事前学習データの比重が大きいため、参照ソース更新の影響を受けにくい。これは「AI推奨1位の翌週固定率」研究で観測したエンジン別の安定度差とも整合する。

05カテゴリ × エンジン(YouTuber系の特殊性)

同じエンジンでも、扱うカテゴリ(業界)によって安定度は変わる。20KWを「エンタメ系(街・YouTuber)」「商品系(化粧水・EV・プロテイン等)」「サービス系(転職・塾・SaaS・葬儀社等)」の3カテゴリに分けて集計した。

Table 2 ── カテゴリ × エンジンの安定度
カテゴリChatGPTGeminiPerplexityAIO
エンタメ系0.4860.5400.5110.457
商品系0.4850.4810.4790.511
サービス系0.4970.544(最安定)0.4990.516

サービス × Geminiが最安定(0.544)

BtoB SaaS、転職、教育、葬儀社といったサービス系のクエリではGeminiの軸が最も固定的。Geminiが「料金の明朗さ」「担当者ガチャがない」「規格・実績」のような客観的に検証できる軸を選好する設計(前章 Figure 1)と整合する。サービス系ではこれらの軸が業界横断で定着しており、Geminiが別の軸に切り替える動機が小さい。

エンタメは「答えがないから揺らぐ」のではなかった

注目すべきはエンタメ系だ。一見すると「住みやすい街」「YouTuberのおすすめ」のような主観で選ぶカテゴリだから揺らぐと予想される。しかし数字を見ると、エンタメ系の重なり率は0.45〜0.54で、サービス系・商品系と大差ない。エンタメは意外と安定している

そこで気になったのが、AIOだけがエンタメで最低値(0.457)になっていること。エンタメのKWには「住みやすい街」系と「AI YouTuber」系が混ざっているので、YouTuber系を除外して再集計するとこうなった。

Table 3 ── エンタメから「YouTuber系KW」を除外した時の安定度
エンジンエンタメ全体(既存)街系のみ差分
ChatGPT0.4860.551+0.065
Gemini0.5400.557+0.017
Perplexity0.5110.546+0.035
AIO0.4570.496+0.039

YouTuber系を抜くだけで、4エンジンすべての安定度が上がった。住みやすい街は意外と語る軸が固定化していて(治安・コスパ・アクセス・子育て環境…)、4エンジン全部で安定している。揺らぎの正体はYouTuber系KWだった。

では、なぜYouTuber系は揺らぐのか。「YouTubeチャンネル自体が日々更新されており、AI側の参照情報も入れ替わりが激しい」という基本仮説に加えて、「AIOがYouTubeを参照する度合いが他エンジンより高いから、AIOがエンタメで最揺らぐ」という仮説立てを行った。しかし本データを見るとYouTuber系のJaccardはどのエンジンでも低く(ChatGPT 0.42 / AIO 0.42 / Perplexity 0.48 / Gemini 0.51)、AIOだけが突出して揺らぐ構造にはなっていない。AIO固有の参照源仮説の検証には別の研究が必要だ。

商品系(化粧水・EV・プロテイン等)は全エンジン横並び(0.479〜0.511)で、特定のエンジンが優位という構造はない。4エンジンともスペック・成分・価格という共通の評価フレームを商品系で共有しているためと推測される。

06LLMO/GEO実務への含意

本研究で得られた知見を、LLMO/GEO実務の観点で整理する。

① エンジン別に「効く軸」が違う

「AI対策」を一括りに語るのは粗い。ChatGPT対策では『役割ラベル(コスパ最強・本格派向け 等)に乗る言語化』、AIO対策では『スペック・性能の数値明示』、Perplexity対策では『第三者媒体の口コミ・評価の蓄積』、Gemini対策では『料金の明朗さ・担当者の安心感・規格名』がそれぞれ効きやすい。ChatGPTとGeminiで推薦が違う理由でも示した通り、エンジン横断で同じコンテンツが効くわけではない。

② ChatGPTには「無料訴求」がほぼ刺さらない

ChatGPTで「無料・初回」軸が登場するのは観測の3%だけ。AIO(12%)・Gemini(11%)の1/4以下である。BtoB SaaSや教育サービスのように無料プラン・無料体験を入口にしているサービスは、ChatGPT経由のユーザーに対して「無料」を最大の差別化ポイントにしないコンテンツ設計が必要になる。「最初の30日無料」よりも「年間導入実績○○社」「業界特化のサポート体制」のような継続価値・専門性の言語化の方が、ChatGPTには引用されやすい構造だ。

③ Perplexity対策は継続観測が必須

Perplexityは観測タイミングごとに推奨理由が変わるため、月1回の観測では取り逃す可能性がある。週1回以上の継続観測で「いま何の軸で語られているか」を捉え続けることが、Perplexity対策では特に重要になる。

④ 業界の共通言語にコンテンツを乗せる

業界特化語彙が4エンジン横断で固定化されている事実は、業界の共通言語をコンテンツに織り込むことが汎エンジン的に効くことを示す。EV車なら「航続距離・充電環境・補助金」、化粧水なら「成分・保湿力・敏感肌対応」のような業界の共通フレーズを、自社サイト・PR記事・第三者メディア掲載のどこに置くかが、AIに推奨される確率を左右する。

07調査方法

データの利用について

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