01AIごとに"一番面白い芸人"の答えが違う

生成AIに「一番面白い芸人は?」と聞くと、返ってくる答えはエンジンごとにハッキリ違う。3種類の類似質問(「一番面白い芸人と言えば?」「今一番面白い芸人を教えて」「2026年、現時点で一番面白い芸人を教えてください」)を4エンジンに長期的に投げ続け、回答テキストに芸人名がどれくらいの頻度で登場するかを集計した。

結果、エンジンによって"推される芸人"の顔ぶれが大きくズレる。特に「サンドウィッチマン」はPerplexity・Gemini・AIOの3エンジンで75〜91%と圧倒的に強いのに対し、ChatGPTでは32.6%と半分以下に落ちる

Table 1 ── 各エンジンで頻繁に挙がる芸人 TOP7(プロンプトなしの通常質問での登場率)
順位ChatGPTGeminiPerplexityAIO
1千鳥 50.0%千鳥 77.6%サンド 91.3%サンド 78.3%
2バカリズム 43.5%サンド 75.5%霜降り明星 52.2%霜降り明星 58.7%
3明石家さんま 37.0%かまいたち 40.8%ジャルジャル 39.1%千鳥 50.0%
4たくろう 34.8%たくろう 38.8%中川家 37.0%チョコプラ 47.8%
5かまいたち 32.6%ダウンタウン 34.7%チョコプラ 34.8%ジャルジャル 32.6%
6サンド 32.6%粗品 32.7%千鳥 34.8%たくろう 32.6%
7松本人志 32.6%霜降り明星 30.6%たくろう 30.4%ダイアン 19.6%

ChatGPTだけが「バカリズム」「明石家さんま」「松本人志」といった顔ぶれを上位に置く。他エンジンでは「霜降り明星」「ジャルジャル」「中川家」「チョコレートプラネット」が並ぶが、これらはChatGPTのTOP7には入ってこない。同じ質問なのに、AIごとに"面白い芸人"の答えが大きく違うという事実がまずここにある。

本記事の主要発見

① AIは「面白い」を一次評価できない(動画を見ないし、劇場にも行かない、笑うこともない)。ではAIは何を根拠に「面白い」を語っているのか、を回答テキストの中身から読み解いた。

ChatGPTだけが「面白さ」に正面から向き合おうとする。「安定感」「センス」「勢い」「万人ウケ」といった軸で笑いそのものを分類してくる。

③ 他3エンジン(Gemini・Perplexity・AIO)は「面白さ」を賞レース・テレビ・ランキングという派生指標に置き換えて答えを組み立てる。

④ 派生指標の中身を掘ると、単発の記事ではなく「オリコン 2026年上半期ブレイク芸人ランキング」「TRILL 中高生の推し芸人」のようなメディアが年次で"賞化"して育てている定期企画に強く引っ張られている。

02AIは「面白い」をどう扱っているのか

ここからが本題である。同じ質問なのに答えが違う——その理由は、AIが「面白い」という問いに対して、そもそもどこを見て答えを作っているかが違うからだ。

大前提として、AIは動画を見ない。劇場にも行かない。笑うこともない。つまり「この芸人のネタは面白い」を一次評価できる立場にはいない。にもかかわらず、AIは「面白い芸人」を平然と答える。何を根拠にしているのか。

4エンジンの全観測回答(数十万字)をテキスト分析し、AIが芸人を推す時にどういう言葉を使っているかを、大きく2つのカテゴリで集計した。

Table 2 ── 回答テキストにおける言及密度(1,000字あたりの登場回数)
言及カテゴリChatGPTGeminiPerplexityAIO
ジャンル分類語(漫才/コント/ネタ/トーク)16.210.66.69.6
プロキシ語(賞レース+テレビ+ランキング)9.213.017.115.3
ジャンル語 ÷ プロキシ語(比率)1.760.820.390.63

この表が全てを語っている。ChatGPTだけが「ジャンル分類語 > プロキシ語」となっており、他3エンジンは真逆で「プロキシ語 > ジャンル分類語」。ChatGPTは「面白さの中身」に踏み込もうとする傾向が強く、他3エンジンは「面白さ」を賞レースやテレビ露出、ランキングといった外的な指標に置き換えて語ろうとする。

03ChatGPTだけが「面白さ」を正面から返す

ChatGPTの回答は、以下のような独特のフォーマットを持つ。実際の観測回答から抜粋する。

ChatGPT 実回答(抜粋)
「安定感 → さんま/センス → 松本人志/今の勢い → 千鳥・かまいたち/誰でも笑える → サンドウィッチマン」
ChatGPT 実回答(別日、抜粋)
「尖り&個人の爆発力 → 粗品/ネタの完成度 → バカリズム/コント実力 → かが屋/漫才の質 → 令和ロマン/総合力(テレビ含む) → 千鳥」

ChatGPTは「どのタイプの笑いか」で振り分けるフォーマットを好む。「安定感」「センス」「勢い」「万人ウケ」「尖り」「コスパ」——そんな軸をその場で作り、5人前後の芸人にラベルを貼って提示する。もちろん、その振り分け自体もWeb上の言説の集約に基づいていることは間違いないが、語り口はもっとも「面白さの本質は何か」に踏み込もうとしている

ChatGPTでも賞レース優勝実績(M-1・R-1)やテレビ露出は言及される。しかし、それはあくまで補助情報として添えられるだけで、回答の主軸ではない。主軸は「面白さの分類」であり、賞レース・テレビは「その分類を裏付ける材料」の位置に置かれる。

結果として、ChatGPTのTOP7には「バカリズム」「明石家さんま」「松本人志」といった賞レース優勝実績よりも"笑いのタイプ"で語られやすい芸人が食い込む。3エンジンで圧倒的1位のサンドウィッチマンがChatGPTだけ6位(32.6%)まで沈むのも、この構造で説明できる。サンドウィッチマンは「M-1王者」「好感度No.1ランキング1位」のように派生指標では最強だが、ChatGPTが好む「タイプ分類」の中では埋もれてしまう。

04他3エンジンは「面白さ」を派生指標に置き換える

Gemini・Perplexity・AIOの3エンジンは、いずれも「面白さ」を賞レース・テレビ・ランキングという派生指標に置き換えて答える傾向が強い。ただし置き換え方の"癖"はエンジンごとに違う。

Gemini ── メディア名は出さないが、事実を合成して語る

Geminiの回答をよく読むと、他エンジンで頻出する「オリコン」「女性自身」といった具体的なメディア名は0回しか登場しない。しかし内容は「テレビで見ない日はない」「冠番組が多い」「M-1優勝」「YouTubeで狂気的」といった個別の事実の列挙で構成されている。

Gemini 実回答(抜粋)
「千鳥:テレビで見ない日はありません。ロケもトークも今のバラエティの『型』を作っている存在です」

「かまいたち:漫才、コント、YouTube、MCと、どのフィールドでも100点を叩き出す『現代の最強オールラウンダー』」

「粗品(霜降り明星):若くしてM-1を制した実力はもちろん、YouTubeで見せる狂気的な一面」

Geminiの語り口は「テレビ番組出演数・冠番組・MC実績・賞レース優勝・YouTube活動」といった外的事実を並べて、あたかも独自の見立てのように提示する。ただし引用マーカー(出典)は原則出さないので、読者は「Geminiが独自の判断で選んでいる」と感じやすい。実態は Web上の分散した事実を統合しているだけである。

Perplexity ── ランキング系記事の要約が基本動作

Perplexityの回答には「本当に面白い芸人ランキングで1位」「オリコン調査で1位」「LINEリサーチで1位」のようなランキング系記事の要約が頻出する。ランキング/調査系の語彙は1,000字あたり11.7回で、他エンジンの2倍以上にのぼる。

Perplexity 実回答(抜粋)
「サンドウィッチマンがよく挙げられます。 各種『本当に面白い芸人ランキング』で1位に選ばれるケースが多く、幅広い世代から支持されています。」

「たくろう:M-1グランプリ2025で優勝し、『2026年ブレイク芸人ランキング』の1位に選ばれています。中高生の『好きな芸人』ランキングでも1位で、若年層からも強い支持を集めています。」

Perplexityでサンドウィッチマンが91.3%と突出して1位なのは、「本当に面白い芸人ランキング1位」「好きな芸人ランキング1位」といったランキング系記事群が検索でヒットしやすいからと推測できる。引用元の広さ(Yahoo・BuzzFeed・note・Impress・LINEリサーチなど)も4エンジン中最も広い。

AIO ── テレビ視聴率・YouTube・権威メディアの総合オーバーレイ

Google AI Overview(AIO)は、videor.co.jp(ビデオリサーチ社=テレビ視聴率調査会社)が引用元の上位に来る特徴がある。テレビ視聴率調査のデータをAIが直接根拠として持ち出しているという意味だ。加えてYouTube URLの引用比率も4エンジン中最も高く、権威メディア(オリコン・女性自身)も総動員する。

AIOはテレビ視聴率+YouTube+権威メディアランキングという3つの派生指標を全部使う"総合オーバーレイ"型で、これがサンドウィッチマン(好感度・視聴率で強い)と霜降り明星・チョコレートプラネット(YouTube・テレビ露出で強い)のダブル上位を作っている。

ChatGPTは「面白さの中身」を語ろうとする。
他3エンジンは「面白さの外側にある指標」で語る。
同じ質問への向き合い方が、そもそも違う。

05派生指標の中身は"賞化された定期企画"に行き着く

ChatGPT以外の3エンジンが多用する「ランキング」の中身をさらに掘ってみると、興味深いことが分かる。AIが「オリコンで1位」「TRILLで1位」と持ち出す時、その中身は単発の人気投票記事ではなく、メディアが年次で運営している"賞化された企画"に集中している。

Table 3 ── AIが「1位」として引用する定期企画(実回答から抽出)
企画名主催メディア形式
2026年上半期ブレイク芸人ランキングオリコン(ORICON NEWS)年次発表
2026年ネクストブレイク芸人ランキングオリコン年次発表
中高生の今推したい芸人TRILL/LINEリサーチ年次調査
好きな芸人ランキング女性自身年次調査
本当に面白い芸人ランキング各種メディア(BuzzFeed 等)不定期/年次

これらの企画は、単なる「今月のバズ記事」ではない。メディアが毎年運営し、業界の中で"賞に近い扱い"に育てている定期コンテンツである。AIはこうした企画に強く引っ張られる。単発の口コミやレビュー記事よりも、継続的に運営される「賞的企画」の重みが桁違いに大きい。

結果として、「サンドウィッチマンは本当に面白い芸人ランキングで1位」「たくろうはオリコン2026年上半期ブレイク芸人ランキングで1位」といった賞的な結果が、AIの答えの中で繰り返し再生産される。

06まとめ ── AIにも"考え方"の個性がある

総じて、ChatGPTは「面白いとは何か」を他のAIより一歩ふかぼって考えようとする姿勢が頭ひとつ抜けていた。他のAIが賞レースやテレビ露出やランキングといった"派生指標"に答えを置き換えるなかで、ChatGPTだけは「安定感」「センス」「勢い」「万人ウケ」といった軸で笑いそのものを分類しようとしていた。もちろん一次評価ができない点は他エンジンと同じだが、答え方の姿勢が違う。

他の3エンジンにも、それぞれ違う癖がある。Geminiは事実を並べて独自の見立てのように語るPerplexityはランキング記事を要約するAIOは視聴率・YouTube・権威メディアを全部使う。同じ質問なのに、答えを組み立てるアプローチが4通り並ぶ。

今回はたまたま「芸人」というテーマだったが、こうした"考え方"の部分は、人間ひとりひとりに個性があるのと同じように、AIにも特徴がある。それを分かりやすく体感できる、身近な事例だったと思う。AIに自社を推薦してもらうこと(LLMO)を考える時、この"エンジンごとの個性"を前提に置くのと置かないのとでは、打ち手の解像度が大きく変わってくる。

07調査方法

データの利用について

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