01背景──3日間隔の「コンボアップデート」
2026年3月下旬、Googleは異例の速度で2つの検索アルゴリズムアップデートを連続投下した。
| アップデート | 開始日時 | 完了 | 特記事項 |
|---|---|---|---|
| スパムアップデート | 3月24日 15:20 ET | 3月25日 10:40 ET | 約19時間で完了。Google史上最速 |
| コアアップデート | 3月27日 05:14 ET | 展開中(最大2週間) | Semrush Sensor ボラティリティ 8.7/10 |
スパムアップデートは新しいスパムポリシーの追加を伴わず、SpamBrain(AI型スパム検知システム)の精度向上に焦点を当てたものであった。一方、コアアップデートはGoogleが「全てのタイプのサイトから、検索者にとってより関連性が高く満足度の高いコンテンツを表示する」と公式に説明している。
SEOコミュニティでは、わずか3日の間隔で2つのアップデートが展開されたため、順位変動の原因がスパム対策なのか品質評価の変化なのか切り分けが困難な状況が生じている。Semrush Sensorは一部の計測でボラティリティ9.5/10を記録し、追跡対象サイトの55%が最初の2週間で計測可能な順位変動を受けたと報告されている。
本調査の問い
では、このGoogleの大規模アルゴリズム変更は、AI検索エンジン(ChatGPT・Gemini・Perplexity)の引用にも影響を与えたのか。
「コアアップデートで高品質と評価されたコンテンツは、AIによる引用でも優先される」——この仮説は直感的に妥当に思える。しかし、我々が知る限り、これを定量的に検証した報告はまだ存在しない。当社は4エンジンの定点観測を毎週実施しており、アップデート前後のデータを即座に比較できる体制にあった。コアアップデート開始からわずか2日後のデータではあるが、初動の実測値を報告する。
02調査方法
定点観測の概要
当社では、複数業種にわたる日本語クエリを週次で4つのAI検索エンジンに自動投入し、回答テキスト・引用URL・推薦ブランドを記録する定点観測システムを運用している。各クエリは曜日ローテーションで実行され、同一クエリは毎週同じ曜日に測定される。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 比較期間 | アプデ前: 2026年3月22日(日) アプデ後: 2026年3月29日(日) ベースライン: 2026年3月15日(日) |
| 対象エンジン | ChatGPT(GPT-4o)、Gemini、Perplexity(Pro)、Google AI Overviews |
| クエリ数 | 9クエリ(3/22 vs 3/29の共通セット) |
| 対象業種 | 化粧品、HR SaaS、教育、AI・テクノロジーなど複数業種 |
| 測定項目 | 引用URL一覧と重要度分類、推薦ブランド名、回答テキスト長 |
| 方式 | デュアルクエリ方式(プロンプトなし+プロンプト付きの2回測定) |
分析の枠組み
引用URLの変動を定量化するため、各クエリ・各エンジンごとに前週と当週の引用URL集合を比較し、以下の指標を算出した。
- 入替率 = (新規URL数 + 消失URL数)/(全ユニークURL数)
- Jaccard類似度 = (維持URL数)/(全ユニークURL数)
入替率が高いほどURLの変動が大きく、Jaccard類似度が高いほど引用の一貫性が高いことを意味する。「アプデ前同士」(3/15→3/22)の入替率をベースラインとし、「アプデ前→後」(3/22→3/29)の入替率と比較することで、アップデートによる追加的な変動の有無を検証した。
03結果 1: 引用URLの入替率に有意な変化なし
3エンジンすべてにおいて、アプデ後の引用URL入替率は通常週と同水準、またはむしろ微減であった。
| エンジン | ベースライン (3/15→3/22) |
アプデ後 (3/22→3/29) |
差分 |
|---|---|---|---|
| ChatGPT | 92.8% | 90.0% | -2.8pt |
| Gemini | 87.5% | 84.3% | -3.2pt |
| Perplexity | 90.0% | 79.2% | -10.8pt |
まず注目すべきは、ベースライン(Googleアップデートとは無関係な通常週)における入替率の高さである。ChatGPTで92.8%、Geminiで87.5%、Perplexityで90.0%——つまり通常の1週間で、AIが引用するURLの約85〜93%が入れ替わっている。
そしてGoogleコアアップデート後の入替率は、いずれのエンジンでもベースラインと同水準かそれ以下であった。Perplexityに至っては10.8ポイントの減少、すなわちアプデ後のほうが引用URLが「安定した」結果となっている。
クエリ別の詳細(ChatGPT)
| クエリ(匿名化) | 前週 URL数 |
今週 URL数 |
維持 | 新規 | 消失 | Jaccard 類似度 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 化粧品おすすめ | 6 | 6 | 1 | 5 | 5 | 9.1% |
| HR SaaSおすすめ | 8 | 15 | 3 | 12 | 5 | 15.0% |
| 教育サービスA | 10 | 13 | 1 | 12 | 9 | 4.5% |
| スキンケアカテゴリ | 8 | 12 | 3 | 9 | 5 | 17.6% |
| テクノロジーカテゴリ | 7 | 9 | 2 | 7 | 5 | 14.3% |
最もJaccard類似度が高い(=引用が安定していた)クエリでも17.6%にとどまり、大半のクエリで類似度は10%未満であった。これはAIが「毎週、ほぼ全く異なるURLを引用している」ことを意味する。
04結果 2: 推薦ブランドの「核」は安定していた
URLが毎週ほぼ総入替する一方で、AIが推薦するブランド名・サービス名には一定の安定性が認められた。
化粧品カテゴリの推薦変遷(ChatGPT、3週間比較)
| ブランド | 3/15 | 3/22 | 3/29 (アプデ後) |
安定性 |
|---|---|---|---|---|
| 化粧品 A(国内大手メーカー) | 推薦 | 推薦 | 推薦 | 3週連続 |
| 化粧品 B(無添加系ブランド) | 推薦 | 推薦 | 推薦 | 3週連続 |
| 化粧品 C(大容量系) | 推薦 | 推薦 | — | 2週→消失 |
| 化粧品 D(敏感肌系) | — | 推薦 | 推薦 | 2週連続 |
| 化粧品 E(韓国コスメ) | — | — | 推薦 | 新登場 |
HR SaaSカテゴリの推薦変遷(ChatGPT、3週間比較)
| サービス | 3/15 | 3/22 | 3/29 (アプデ後) |
安定性 |
|---|---|---|---|---|
| SaaS-A(国内シェアトップ) | 推薦 | 推薦 | 推薦 | 3週連続(常に上位) |
| SaaS-B(勤怠管理系) | 推薦 | 推薦 | — | 2週→消失 |
| SaaS-C / SaaS-D(海外サービス) | — | 推薦 | — | 1回のみ |
| SaaS-E(統合管理系) | — | — | 推薦 | 新登場 |
各カテゴリに1〜2の「不動のコアブランド」が存在し、3週間にわたって安定的に推薦されていた。これらはGoogleのアップデートに関係なく推薦され続けており、AIの推薦ロジックにおいて「揺るがない存在」であることが示唆される。
05考察──URLは不安定、ブランドは安定の二重構造
本調査から浮かび上がったのは、AI検索における「二重構造」の存在である。
- 表層(引用URL): 毎週85〜93%が入れ替わる。極めて不安定。Googleアプデの有無に関わらず常に大きく変動する
- 深層(推薦ブランド): 主要ブランドは3週間以上にわたり安定的に推薦される。新規ブランドの参入・既存ブランドの脱落は周辺部で起きる
なぜURLとブランドで安定性が異なるのか——「パーセプション」の概念
ここで重要なのは、AIが推薦を決める際のメカニズムである。ChatGPT・Gemini・Perplexityはいずれも回答生成時にWeb検索を実行している(当社の測定データでも web_search_triggered: True が記録されている)。つまり、ブランド推薦もリアルタイムのWeb検索結果から構成されている。
では、なぜURLは毎週入れ替わるのにブランドは安定するのか。
「化粧品のおすすめ」で検索した場合、上位に表示されるページは毎週変動する。しかし、どのページを読んでも「化粧品Aは定番」「化粧品Bは敏感肌に人気」という文脈は共通して存在する。これはWeb全体に蓄積された、ブランドに対する「パーセプション(認知の総体)」とでも呼ぶべきものである。
AIは個別のURLではなく、複数のページから読み取れる文脈の総体——パーセプション——に基づいて推薦を行っていると考えられる。URLが入れ替わるのは「入り口」が変わっただけであり、その先にあるパーセプションは変わっていない。
この解釈は、Googleのコアアップデートが短期的にはAI推薦に影響しなかった理由も説明する。コアアップデートは個別ページの検索順位を変動させるが、Web全体に蓄積されたブランドのパーセプションを覆すほどのインパクトは、1週間では生じないのである。逆に言えば、長期的に検索結果の構成が変われば、AIのパーセプションにも変化が及ぶ可能性はある。これは今後の継続分析で検証すべき仮説である。
GEOにおける「パーセプション」の意味
この「パーセプション」の概念は、GEO戦略にとって根本的な示唆を持つ。AIに推薦されるために必要なのは、特定のURLを上位表示させることではなく、Web全体において自社ブランドが「この分野の定番」として認知される文脈を構築することである。自社サイトだけでなく、レビューサイト、比較記事、業界メディア、SNSなど、多様な場所でブランドが言及される——その厚みこそがAIのパーセプションを形成し、安定的な推薦につながる。具体的な対策手法は「AIO対策6選」でも詳しく解説している。
06留意事項と今後の分析計画
本分析の限界
- コアアプデ展開初期のデータ: コアアップデートは3月27日に開始され、完全なロールアウトには最大2週間(4月10日頃まで)を要する。3月29日時点のデータは展開初期のスナップショットに過ぎず、今後の追加データで結論が変わる可能性がある
- サンプルサイズ: 共通クエリ9件は統計的な有意性を厳密に主張するには限定的である。傾向の把握と仮説提示として位置づけていただきたい
- ベースラインの期間: 通常週の比較は1期間(3/15→3/22)のみ。複数期間のベースラインを蓄積することで、より堅牢な比較が可能となる
- AIOデータの不在: Google AI Overviews(AIO)については引用URLの構造化データが取得できておらず、今回の分析対象から除外した。Googleの自社AIサービスであるAIOこそ、コアアプデとの連動が最も期待されるため、今後のデータ取得方法の改善が課題である
今後の分析計画
当社では今後、以下のタイムラインで追加分析を実施する予定である。
- 4月中旬(コアアプデ完全展開後): 3/22(前)→ 4月中旬(後)の比較で、展開完了後の影響を再検証
- 5月以降: 複数コアアプデをまたいだ長期トレンドの分析。URL入替率の「平常値」をより正確に推定
分析結果は本ブログにて随時報告する。
07GEO実務者への示唆
1. 「どのURLが引用されるか」よりも「ブランドが言及されるか」を追え
引用URLは毎週85〜93%が入れ替わるという事実は、特定のURLをAIに引用させることを目標にしたGEO施策の限界を示唆している。むしろ、AIが安定的に推薦し続ける「コアブランド」のポジションに入ることが、GEO戦略の優先目標であるべきだ。
2. Googleのコアアップデートに過剰に反応しない
SEOの文脈では、コアアップデート後に検索順位が変動し、それに応じてコンテンツやサイト構造を修正するのが一般的な対応である。しかし本データは、Googleの検索順位変動がAI検索の引用に直ちに波及するわけではないことを示している。GEOにおいては、アップデートへの短期的な対応よりも、ブランドの認知度と信頼性の長期的な構築に注力するほうが合理的であろう。
3. AI引用URLの不安定性は「構造的特性」である
今回の分析で最も重要な発見は、URL入替率85〜93%という数値がGoogleアプデとは無関係に、常態として存在していたということである。これはAI検索の引用システムに構造的に組み込まれた特性であり、外的要因によるものではない。GEO戦略を設計する際は、この不安定性を所与の前提として組み込む必要がある。